去る平成22年12月20日に最高裁判所にて行政書士法違反事件の判決があり、翌21日には、全国紙全紙の朝刊で報じられました。
このことについて、簡単ではありますが、現時点での考え方をお示ししますので、ご理解の程よろしくお願いいたします。

1.事件の概要
 無資格の被告人が行政書士から職務上請求用紙を買い取り、不正に戸籍謄本を取り寄せ、注文者の家系図を作成し、販売したという事件で、裁判においては行政書士法違反(家系図作成は事実証明に関する書類作成に当たる)で争われ、一審、二審とも有罪であった。しかし、被告人が上告し、最高裁で争われた結果、逆転無罪が確定した。
 なお、被告人に職務上請求用紙を売り渡した行政書士は、本件の一審判決前に行政書士法違反の共犯で罰金刑が確定している。

2.最高裁判決に対するマスコミ向け見解
 判決当日の夜に、取り急ぎ司法記者クラブの幹事社あてに出したコメントは次のとおり。東京版においては、毎日新聞と産経新聞で一部を取り上げている。
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現状で判決文を子細に検討した訳ではないが、今回の判決は、観賞用・記念用目的であるかぎり事実証明文書にあたらない、としたものであると解しています。
今回の判決が一人歩きして、親族関係図等に関しても無資格者が作成できるかのように誤解され社会生活に混乱を来すことを危惧します。
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3.今回の判決を受けて
 「事実証明に関する文書」については、「われわれの実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいう」という基本的な判例がある(大九・一二・二四大、刑録二六-九三八)。今回の判決をこれに重ねてみると、要は、観賞用又は記念用として作成・使用されるものについては、上記「…証明するに足りる文書」には当たらず、行政書士の業務とされている事実証明文書には該当しない、と判断したものと理解するのが相当である。もとより、遺産分割協議等の際などに法的に作成を要する、親族関係図や相続関係説明図等の作成については、今回の判決は何ら関係ないことはいうまでもない。

(1)観賞用又は記念用とはいえ将来の使途を限定できないことを踏まえ、今後は社会に対して、関係法令知識を有するとともに守秘義務を課され、また、裁判長による補足意見にあるとおり戸籍・除籍の調査に関する専門家である行政書士により作成されることが国民の利便に寄与する旨をしっかりと訴え、広報を強化してゆく。

(2)観賞用又は記念用の家系図作成は、行政書士法第1条の2第1項にいう行政書士業務に該当しないことから、職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求することはできない。

(3)事実証明文書としての親族関係図や相続関係説明図等の作成は、行政書士法第1条の2第1項にいう行政書士業務に該当するので、職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求することができる。職務上請求書の使用に際しては、関係諸法令、行政書士倫理等を順守し、行政書士の信用又は品位を害することのないよう、また人権問題等を生じせしめないよう、行政書士としての使命感を持って取り組まなければならない。

○参考添付:平成22年12月20日・行政書士法違反被告事件 最高裁判決

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